シャンパーニュの味わいを読み解く

Homan由佳の英語で女子力アップ

前回のブログでは、英文を読む時には「背景知識」が内容理解に大きな働きをしてくれると書きました。

英文読解をさらに強力にサポートしてくれるのが「語彙力」です。ただ、内容が非日常的で、やや専門的だったりすると、よく知っている単語なのに違う意味で使われていることがあります。
そういう時はまず、自分の知識を総動員して推測して読み進めることが大事ですが、専門用語は多義語(1語で2つ以上の意味を表す語)が多いため、見慣れた単語がいつもとは違う意味で使われることが多いので、辞書を使って確認することをオススメします。

今回は、単語をきちんと理解することを意識して英文を読み解いてみたいと思います。英文は前回取りあげたシャンパン(シャンパーニュとも言う)のコメント、つまりテイスティングノート (tasting notes)です。ワインのコメントという特殊な文脈を解読しながら、単語の意味を解釈する難しさと面白さを体験して下さい。以下、ヴーヴ・クリコ・ポンサルダンのテイスティングノートをもう一度引用します。

This is tightly knit and racy, with a spicy underpinning and a clear-cut mix of poached pear, grated ginger and pink grapefruit zest. An aperitif style, showing a crispy, lacy finish. Drink now.

https://www.wine.com/product/veuve-clicquot-yellow-label-brut/528 からWine Spectatorのコメント抜粋

1行目の racy はあまり馴染みのない単語かと思いますので、今回はこの単語にフォーカスします。前後に解読のヒントがあるか探ってみましょう。直前に tightly knit 「引き締まった」という表現があり、後ろには「スパイシーさを軸に、ポシェ梨、おろし生姜、ピンクグレープフルーツの風味がはっきりと感じられる」があって、「食前酒向き。キリッとして喉越しの素晴らしい後味。今が飲み頃です。」と続きます。ただし、最後の方に lacy がありますが、racy ではないので注意。これは「レースのような」という別の単語で、繊細な口当たりを表すときに良く使われる用語です。

これではまだ racy の正体がはっきりしませんね。ここで辞書を参考にしてみましょう。手元にあるリーダーズ英和辞典よると、4つほど意味があります。

  • 独特の風味のある、本場(本物)の、一種独特の
  • 活気(生気)のある、元気の良い
  • (文体・描写が)生彩のある、ピリッとした
  • きわどい、興味をそそる

どれも当てはまりそうな感じがしますねぇ。一つ一つ意味を当てはめながら、自問自答しながら racy の真の意味を探ってみました。以下独白。

「独特な風味」というのは語呂が良い感じはするけれど、具体的にどんな味なのかイメージがつかない。「活気がある、元気の良い」というのは泡の状態を表しているのだろうか。それならありかもしれない。文体や描写で使われる「ピリッとした」という擬態語はどちらかというと「痛快な」という意味合いだろうから、「ピリッとした」味覚表現にはそぐわないかもしれない。「きわどい味」って何?でもワインの表現には比喩が多いので、こんな怪しげな記述もありかもしれない。

結局、英和辞書でも解決しません。それから様々な英英辞書を使ってみましたが、明快な答えが出ません。最後に私が行き着いたのは、ワイン用語のウェブサイトです。

色々ありますが、こちらはかなり分かり易かったです。racy の定義が見つかりました!

Racy wines offer higher levels of acidity. Similar to nervous or nervy.

このサイトによると、racy とは「酸味が強い(高い)」という意味でした。しっかりした酸が感じられるということですね。ワインが良質かどうかは見極めるための重要な要素に「酸味」がありますので、ここではポジティブな意味です(もちろん強すぎはダメですが)。あと興味深いと思ったのは、racy の同義語として nervous や nervy が挙げられていること。私達がよく使う「緊張した」という意味とはまったくかけ離れています。(語源を調べると語義は同じかもしれないですが)racy も nervous も多義語ですね。どちらも根底には「活気のある」「生き生きとした」といったニュアンスがあることばなので、これが「スッキリした酸」の評価と結びついたのでしょう。fresh や lively も同じ意味で良く使われますが、用語としてはちょっと格上げの表現かな、というのが私の個人的な感覚です。

実は、こんな風にして、私はワイン特有のことばを習得しています。 たくさんの英語のテイスティングノートを読むようになると、何度も同じ単語に出会うようになり、徐々に文脈から単語の意味を推測できるようになりました。とはいえ、ワイン用語は完璧に体系化されているわけではないので、解釈が曖昧に終わることも多いのです。それにテイスティングは主観が入るので、書き手(ワインライター)によって感覚のトーンやスタイルは随分違いますし、同じ英文でもアメリカ英語・イギリス英語などの地域差もあるでしょう。結局100%正確に解釈することが難しいと言えるかもしれません。でも、そこがまた読み手にとって面白いところなんです(笑)。

ところで、「シャンパン」と「スパークリングワイン」は違うのをご存知でしょうか。日本では「シャンパン」と言えばシュワシュワ泡が出るワインの総称のように呼ばれていますが、そうではなくて「スパークリングワイン」の方が発泡性ワインの総称です。「シャンパン」と名乗れるのはシャンパーニュ地方で造られた発泡性ワイン(スパークリングワイン)ということになります。特定のぶどう品種を用いてシャンパーニュ製法と呼ばれる伝統的手法で造られた、フランスの厳しい法律の規定をクリアしたものだけがシャンパーニュ(Champagne) とラベルに表記できるのです。シャンパーニュ地方の発泡性ワインが高価なのは、時間と手間をかけた製造過程を考えると当然と言えます。もし、2つの発泡性ワインのテイスティングノートがあって、高価なシャンパーニュ地方の「シャンパン」なのか、安価で美味しいスパークリングワインなのか迷ったら、読み解くのが難しい単語が含まれるテイスティングノートの方が間違いなく高価な「シャンパン」です。何年もかけて丁寧に造られたワインを描写する際、ライターはあえてシンプルではない単語を選ぶことで味わいの複雑さを表現しようとしているのかもしれません。

そうそう、「シャンパン」はフランス語の「シャンパーニュ」を短くした日本語読みで、英語読みでは「シャンペイン」となります。最近は日本人が「シャンパーニュ」とフランス語読みをする人が増えたように感じますが、少し前までは英語読みの「シャンペン」が主流でした。「シャンパーニュ」の響きを気取っていると感じる人がいるかもしれませんが、「シャンパーニュ地方でシャンパーニュ製法で造られた」原義を尊重している感じがして、私はこの言い方がしっくりきます。でもレストランで「美味しいシャンパーニュをお願いします。」と注文する時には先にお財布と相談しておいた方が良さそうです(笑)。

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Yuka Homan

Yuka Homan

ジーワン・コミュニケーションズ取締役。立正大学教授。専門はメディア英語、英語教育。 仕事で英語と長く接してきた経験をもとに、英語を外国語として学ぶ者として、また英語を教える立場から日々感じることや、内面から女子力をアップするようなちょっとした知識もとりいれつつ、徒然なるままに書いていきたいと思います。
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